富岳和歌図小柄 卸売 銘 東都において 船田一琴(花押)天保十三年壬寅孟春彫始

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蓬莱に聞かばや伊勢の初便表題の小柄は初春の目出度さを寿ぐことを主題とした小柄です。一琴は後藤一乗の門人として知られる江戸時代の金工です。
際端には「東都において 船田一琴(花押)」と銘文が刻されています。
裏の和歌は松尾芭蕉の一句で「蓬莱や聞かば伊勢の初便り」と読めます。
伊勢には伊勢神社が鎮座し、神無月(旧暦の十月)には全国各地の神々が伊勢神宮の集まってきます。
そして、翌年のお正月には伊勢から帰った八百万(やよろず)の神々が各地に帰ってお正月の準備をすると信じられていました。
実は芭蕉の句の「蓬莱」とは蓬莱飾りとよばれる正月飾りのことで、三方に松竹梅を立てて、白米や羊歯・昆布やゆずり葉を敷き、その上にかちぐりや伊勢海老・橙や柚子などを飾るそうです。
この蓬莱飾りには神が宿ると信じられていたことから、昔の人は蓬莱飾りに耳を近づけると、伊勢から帰った地元の神々から、伊勢の初便りを聞くことができると信じていたのでしょう。
また、裏の和歌の文字に交じって、松葉が散らされているのにも意味があります。松は三方に飾る松竹梅の松からこぼれた松葉でしょう。おそらく本作には目貫や笄と共に三所物であったと思います。そして笄と目貫には松竹梅の梅と竹が意匠されていたものと推測します。
刻された年紀は天保十三年 孟春は正月で、彫始とあるので、一年の一番最初にこの小柄を彫ったということでしょう。画題と銘文に惹かれて購入した作品ですですが、十分楽しんだので、今回売却したいと思います。

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